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木犀!/日本紀行 セース・ノーテボーム [本]


木犀!/日本紀行

木犀!/日本紀行

  • 作者: セース ノーテボーム
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2010/08/01
  • メディア: 単行本



オランダ人の書いたものが読みたいと思って、セース・ノーテボームを読みだした。

セース・ノーテボームは1933年生まれ(85歳)のオランダ人小説家で詩人、旅行作家、エッセイスト。毎年ノーベル文学賞の候補に名前があがるほど、ヨーロッパでは有名な作家だというが、日本語で出版されている本はわずかだし、代表作がどれなのかすら私にはわからない。

上の写真の本は、小説「木犀!ーある恋の話」と、紀行やエッセイをいくつかまとめた「日本紀行」が収録されている。冒頭数ページを読むだけで、ノーテボームがいわゆる「日本文化」に大変に詳しい人であり、その日本文化と現代(書かれたのは1980年)の日本の間にある落差のようなものを、的確に見つめている人であることがわかる。

例えば、主人公アーノルト・ぺシャーズの友人の会話。この友人はベルギー大使館に勤務している。

「君は他のみんなと同じように、間違った考えを持って日本に来たんだ。そういう人は散々見てきたよ。谷崎の本を読んだり、あるいは「将軍」でもいいけどさ、広重の展覧会を見るとか、禅について何かを聞いたことがあるだけで、もう知っているような気になるんだ。それは本当に大きな誤解だよ。」

「彼ら(日本に来る西洋人)が求めているのは、オランダで誰もがランズロットを暗唱できるとか、フランドルがメムリングとブリュッゲのオールドタウンとルースブローク研究からだけ成り立っているというようなことなんだ。そんな国は過去の時間のなかにだけ存在するのであって、現在の空間にはもうないんだけどね。」

この後、彼らは連れ立って皇居へ向かい、天皇誕生日の一般参賀に加わる。さらに、主人公アーノルトと日本人女性「木犀」との恋愛と別れへと話が展開していく。

オランダ人による日本文化論がとても面白い。同時に、外国の文化を理解しようとして、どうしても自分のものにならない焦燥感のようなものに共感する。

***

2010年に出版されたこの本、出版してすぐの頃に一度購入して、その時はあまり面白いと思わず、適当に読み飛ばして処分してしまった。

それが、オランダ人の書いたものを読みたくなって思い出し、図書館で借りてきた。

読んでいくうちに、さらに、これはいつも手元に置いておきたいと思うようになって、結局また買うことになりそう。

あの時、手放さなければよかったのに。





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コメント 2

staka

私も、幕末から明治初め頃に来日した外国人の紀行文などを読んだりします。今の日本にはなくなってしまった暮らしや自然、現代にまで受け継がれているもの・・・そして、日本人には気づかないような評価の観点など、今の訪日外国人観光客が世界に発信しているのにも繋がりますね。
by staka (2019-06-27 00:09) 

YURI

stakaさん
幕末から明治期だと、今の私たちでも馴染みのないような暮らしや自然があったのでしょうね。当時の外国人が持ち帰った日本の美しいイメージは、高度成長期には壊されてしまった。上の小説はそんな落胆が表現されていますが、当の日本人は割と無頓着。今は秋葉原など、また別の魅力が発見されているようです。外国人の視点が色々気付かせてくれますね。
by YURI (2019-06-27 10:15) 

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