十角館の殺人 綾辻行人 [本]
1987年の作品。
「新本格ミステリ」のさきがけ的作品とのこと。
新本格ミステリとは、何か。
「十角館の殺人」の冒頭で、ミステリー研究会の青年によって語られるこのようなセリフがわかりやすい。(長いが、引用する。)
「僕にとって推理小説(ミステリ)とは、あくまでも知的な遊びの一つなんだ。小説という形式を使った読者対名探偵の、あるいは読者対作者の、刺激的な論理の遊び(ゲーム)。それ以上でも以下でもない。
だから、一時期日本でもてはやされた”社会派”式のリアリスム云々は、もうまっぴらなわけさ。1DKのマンションでOLが殺されて、靴底をすりへらした刑事が苦心の末、愛人だった上司を捕まえる。––やめてほしいね。汚職だの政界の内幕だの、現代社会のひずみが産んだ悲劇だの、その辺も願い下げだ。ミステリにふさわしいのは、時代遅れと云われようが何だろうがやっぱりね、名探偵、大邸宅、怪しげな住人たち、血みどろの惨劇、不可解犯罪、破天荒な大トリック…絵空事で大いにけっこう。要はその世界で楽しめればいいのさ。ただし、あくまで知的に、ね。」
いわんとするところは、大いにわかる。
私はそういう(名探偵、大邸宅、絵空事のような惨劇と大トリック)作品が大好きなのである。
だから、孤島の奇妙な屋敷「十角館」にやってきた大学生7人が次々と殺されていく、という、文庫本の後ろのあらすじを読んだだけで、クリスティの「そして誰もいなくなった」を連想して、これは絶対に読まねばならぬ、と思った。
確かに、クリスティ「そして誰もいなくなった」に本当によく似ている。そして、そこにもう一枚、過去に同じ島で起こった男女4名の殺人事件が絡んできて、物語はさらに複雑。
しかし、人物設定がわかりやすく、感情移入しやすい。
トリックも手が込んでいるし、動機も納得がいく。
そして、長い物語にのめりこんで、あと残りわずかなのにまだ犯人がわからない、と思っているうちに、謎が一瞬にして解ける。そのあまりにも鮮やかな展開。
これはすごい作品だ。
海外ミステリが好きで、今まで国産は敬遠してきたが、これは、考えを改めなくてはと心底思った。
タグ:日本のミステリ
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