黒いトランク 鮎川哲也
昔、職場の上司に勧められて読んだ「黒いトランク」。
とにかく、トリックの緻密さに圧倒されて、ずっと私のミステリー小説ランキングの上位を占めていた。
にも関わらず、物語の細部はすっかり忘れてしまっていて、「すごいミステリー」だという印象だけが残っていたのだけれど、ようやく読み返してみた。
物語の時代は1949年。70年前の話だ。
東京の汐留で、トランクに詰め込まれて九州から送られてきた腐乱死体が発見される。犯人とおぼしきCはすぐに自殺体となって発見される。
容疑者のAとZの2名にはアリバイがあり、特にAのアリバイは鉄壁である。
また、東京ー博多間で二つのトランクが交錯し、中に詰められた死体が入れ替わるが、実際に死体を詰め替える時間はわずかであり、どうやって入れ替えたか説明がつかない。
鬼貫刑事は、根気強く聞き込みを重ね、犯人を追い詰めていく・・・
今、改めて読んでいくと、殺す側、殺される側それぞれの事情は書き込まれているにせよ、肝はそこではなく、ひたすらトリックを楽しむ、謎解きの醍醐味を味わう小説という感じだ。犯人のキャラクターが別人でも、淡い昔の恋が絡まなくても、極論すれば、鬼貫刑事が若いイケメンの物理学者(ガリレオみたいな)でも、とにかく、このトリックがあれば、他はどうでもよろしいと感じてしまうのだ。
そして、展開に「えぇ〜...それはないでしょ」と白けさせるところが一つもなく、数学の方程式を解くように整然と謎が解けていく。
「人間ドラマ」が丁寧に描かれるミステリーが好きという私の友人だったら、「物足りない」というのかもしれないけれど、こういうの、好きな人にはたまらないはずだ。本格ミステリー。
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20代の頃、この鮎川哲也の名作を勧めてくれた上司は「おじさん」だったと記憶している。しかし、色々思い返してみれば、彼はまだ30代後半、アラフォーだったはずだ。若白髪と痩せた体型のせいか、妙に老けて見えたのは、私が若かったからなのかな。
今なら、アラフォーなんて若者よね。
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