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皇帝のかぎ煙草入れ ジョン・ディクスン・カー [本]


皇帝のかぎ煙草入れ【新訳版】 (創元推理文庫)

皇帝のかぎ煙草入れ【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: ジョン・ディクスン・カー
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/05/20
  • メディア: 文庫



1942年の作品。アガサ・クリスティも絶賛したという名作とのこと。
1942年というと、第二次世界大戦中だから、もう80年近く昔の作品。

夫と離婚したばかりのイブは、真面目な青年トビイと婚約するが、程なくトビイの父親が惨殺され、イブはその事件の有力な容疑者となってしまう。

大金持ちで美人で、人を疑うことを知らないという、大変魅力的な主人公イブ。
トビイの父親が血まみれになって死んでいるその時、向かいのイブの家では、別れた夫が寝室に侵入、復縁を迫る、という修羅場の真っ最中。アリバイは完璧だが、婚約者の手前、別れた夫に寝室に侵入された事を秘密にしなければならず、アリバイを証明できない。このままでは逮捕、懲役への道まっしぐら、という感じで、美女イブの運命にハラハラしているうちに話はテンポよく進み、意外な結末と、読むものを唸らせるトリックが披露される。

確かにクリスティでなくても、これは名作だと頷きたくなる。

それに、キャラが立っている。
主人公イブをはじめとして、美男で遊び人の元夫、真面目を絵に描いたような次の婚約者、胡散臭いメイド、思ったことをズケズケと言う婚約者の妹。そして、切れ者の心理学者キンロス博士(探偵役)。

物語の途中で「えっと、この人はどういう関係だっけ?」と前に戻ることもほとんどなく読み進めてしまう。ジョン・ディクスン・カーは、巧みな書き手だ。

しかし、やはり1942年、ヨーロッパの「古き良き時代」なのである。
主人公イブの莫大な財産は、19歳で父の遺産であるランカシャーの綿紡績工場のいくつかを相続したため、とある。イブはその財産のおかげで、フランスの保養地の一軒家でメイドを使いながら優雅に暮らしている。

証拠品の血痕にしたって、現代ならDNA鑑定で一発だし、居並ぶ家族の前で警察がイブを事情聴取するなんてありえない。それに、別れた夫が夜訪ねて来た事がそんなに恥ずべき事だろうか。登場人物たちはみんなが「貞淑な女性にあるまじき事」という捉え方をしている。だから、イブは必死で隠すのだ。

最近読んだ現代のミステリでは、女主人公は仕事を持ち、悪に立ち向かう姿勢も半端ではない。優雅に運命に翻弄されるイブのようなヒロインは、やはり80年前だからこそなのだろう。現代だったら、イブは堂々とアリバイを主張しているはずで、しかし、それではこの話は成立しないのだ。

ところで、題名の「皇帝のかぎ煙草入れ」。
皇帝はナポレオン・ボナパルトを指す。ナポレオンは細かく刻んだかぎタバコを豪華なケースに入れていつも持ち歩いていたそうだ。重要アイテムなのだが、その重要さは最後まで明らかにならない。最初から「重要」と思って読んで見るのも面白いかも。







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ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ A.J.フィン [本]


ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ 上

ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ 上

  • 作者: A.J. フィン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/09/19
  • メディア: 単行本




ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ 下

ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ 下

  • 作者: A.J. フィン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/09/19
  • メディア: 単行本



「こんな女性が探偵役のミステリは読んだことがない」という山崎まどか氏のコメントが帯にあって、早川書房今年イチオシのミステリであるらしい。

こんな女性、というのがどういう女性かというと、

・ニューヨークの高級住宅街の4階建の家に一人暮らし
・精神分析医で肩書きは「ドクター」だが、今は休業中
・広場恐怖症で、家から一歩も出られない。
・夫と娘とは別居中
・精神系の薬を服用中、主治医も精神科医
・メルローというワインをいつも飲んでいる
・「ガス燈」「めまい」など古い映画が大好きで、いつも見ている
・デスクトップのパソコンでチャット、iPhoneのユーザーである
・年齢は38、9歳。(物語中誕生日が来る)

確かに、どんなに知的な人物でも家から一歩も出られないとなると、リンカーン・ライムのように手足となってくれるパートナーでもいない限り、事件解決は無理だろうと思う。

それなのに、彼女は、向いの家で起こる殺人事件を、こちら側の窓から目撃してしまうのだ。

しかも、精神系の薬を常用し、さらにアルコール過剰摂取気味であることから、彼女の告発は誰にも信じてもらえない。警察も、一応の聴取のあと「幻覚」と判断して帰ってしまうのだ。

ここで、知的な人物だったはずの初期の彼女のイメージはくずれ、精神不安定で孤独な中年女という実像があらわになってくる。

しかし、事件はやはり現実に起こっていたのだ・・・

そして、彼女自身にも危険が迫り、対決の時がやってくる。

というわけで、前半の彼女の日常描写はやや退屈だが、事件が起こってからの後半はほとんど「一気読み」。大変に面白かった。

この作品は映画化も決定しているらしい。
彼女の高級住宅でのライフスタイルの映像化は楽しみだし、古い白黒映画も効果的に使われるにちがいない。今から大変に楽しみである。




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スキン・コレクター ジェフリー・ディーヴァー [本]


スキン・コレクター 上 (文春文庫)

スキン・コレクター 上 (文春文庫)

  • 作者: ジェフリー ディーヴァー
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/12/04
  • メディア: 文庫



スキン・コレクター 下 (文春文庫)

スキン・コレクター 下 (文春文庫)

  • 作者: ジェフリー ディーヴァー
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/12/04
  • メディア: 文庫



リンカーン・ライムシリーズの、第何作目?

捜査中の事故で、首から上と片手の人差し指(左手?)以外は不随となってしまったリンカーン・ライムと、その手足となって現場検証をする女性警察官アメリアが、異常犯罪に臨む。

「スキン・コレクター」は、例によって単純な殺人ではない。被害者の皮膚に刺青をし、その顔料に仕込んだ毒によって相手を殺すという、奇妙な連続殺人。しかも、その犯罪は、ニューヨークの地下に網の目のように残る古い通路を舞台としている。

暗くて、湿っぽくて、カビ臭い・・・そういう場所は、第1作目「ボーン・コレクター」を思い出させる。登場人物も、第1作目の被害者(生還)だった少女(パム)が19歳になって、重要な役割を演じている。

基本的な感想だが、第1作目でリンカーン・ライムを白人男性と想定して読んでいたが、映画化した時、ライムを演じたのはデンゼル・ワシントンだった。

それ以来、ライム皮膚の色はどう設定されているのか無意識に注目しているが、今回も、それについての言及は無かったように思う。白人でも黒人でも、彼の明晰さに変わりはないが。

意外な展開、どんでん返し、相変わらず頭脳明晰なライムと、行動的なアメリア。さすがな感じだが、やや展開がもったりする感じがしてしまった。こちらの読む力が衰えているのだろうか?

犯人は意外な人物だったが、推理小説のセオリーとしてはよくある、かな。
その人物が疑われないように、いいタイミングで好都合な事件が起こっているから。
もちろん、そのことには全く気がつかなかったけれど。




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カササギ殺人事件 アンソニー・ホロヴィッツ [本]


カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

  • 作者: アンソニー・ホロヴィッツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: 文庫

カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

  • 作者: アンソニー・ホロヴィッツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: 文庫



「年末ミステリランキング全制覇、驚異の傑作」という宣伝文句にひかれて読んでみた。

ちなみに、年末ミステリランキング全制覇、というのは
 「このミステリーがすごい!」・・・別冊宝島社
 「週刊文春ミステリーベスト10」・・・文芸春秋社
 「ミステリが読みたい!」・・・早川書房
 「本格ミステリ・ベスト10」・・・探偵小説研究会編著 原書房
以上4つのランキングでいずれも1位ということだそうだ。

著者のアンソニー・ホロヴィッツは正直、聞いたことがなかったが、この謳い文句、この実績だけでも期待に胸が踊る。

カササギ殺人事件は、赤い上巻とブルーの下巻の2冊仕立て。
現代が舞台となるストーリーに、1955年を舞台に描かれた推理小説「カササギ殺人事件」が組み込まれた構成になっている。上巻はほとんどこの組み込まれた方の小説。

しかも、その組み込まれた方の小説は、後少しで犯人がわかる!というところで切れて、ストーリーは現代に移ってしまう。(ここから下巻)

そして、その現代でもこの小説を巡って事件が起こり、読みながら、上巻の方の犯人は気になるし、現代の事件の方の犯人も気になるしで、一気に最後まで読み進んでしまうという、まさに傑作。

上巻の事件は、1955年のイギリスの田舎を舞台にしており、お屋敷の貴族、その妻と彼女の愛人、牧師、医者、怪しい骨董商夫婦、家政婦とその息子、彼の婚約者、など、登場人物も場所の雰囲気も、アガサクリスティの世界そのもの。名探偵のアティカス・ピュントも、エルキュール・ポワロを彷彿とさせる。

上巻、下巻、二つの殺人事件は、トリックというよりは、丹念に人物の人となりを調べ、殺人の動機を徹底的に洗っていって犯人がわかる、というもの。読み飛ばすと、解決の醍醐味が薄れるかもしれないからご注意を。

面白くて、これを読むために夜のインターネットを自粛した。
ミステリランキング全制覇は、伊達ではない。











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